夏になれば少年のころを思い出して胸がドクンッと高鳴る。
蝉の鳴き声が降り注ぎ、焦がす太陽をはねのけて、僕たちは虫あみブンブン駆け回る。
ポッケには50円玉。
珠のような汗をかいてからお気に入りの駄菓子屋に逃げ込むのだ。
そこで買うチューペットアイスは格別で、僕らはそれをチュパチュパなめながら秘密基地に向かう。
僕たちの秘密基地はフェンスをよじ登った小高い丘の上にある。
丘の上からは街を見下ろせて風が気持ち良い。
虫カゴいっぱいのセミを僕たちの丘の上の秘密基地から大空へと解き放つ。
ジジジジとセミが僕たちの虫カゴから飛び出す。
パッキリとした青い空に立っている高い高い入道雲に向かって。
僕たちは永遠にこの日を繰り返すと信じてた。
お題「夏を感じる一コマ:写真、またはイラストを添えて」 - はてなブログ
あのころの夏の情景と変わらないもの。
時は現代。今年も蝉の鳴き声がシャーシャーと降り注ぐ季節になった。
今年は7月中旬ですでに40℃を越える異常気象ともいわれている。
あの頃の僕たちの贔屓にしていた駄菓子屋はきりもりしていた優しいおばちゃんが倒れてなくなった。いまはコンビニが立っている。
あれだけ仲良かった秘密基地の仲間もいつしか連絡もとれなくなってしまった…どこにいるのかもわからない。思い出すことができるのは少年のころの笑い顔だけだ。
そんな中あの頃の夏の情景と変わらないものがあるんだ。
なんだと思う?
パッキリとした青い空に立っている高い高い入道雲だ。
だけどそのことに僕たちはなかなか気づかない。
駅のホームを観察してみるとすぐわかる。
僕たち大人は8割がうつむいて歩いている。残りの2割は前をみて歩いている。
本当だよ。1度見てほしい。誰も空を見上げないから(一方子どもたちが空を指さして楽しそうにしている姿の多いこと…子どもは素敵なものを見つけるのがとてもうまいなと感心する)
田んぼが気づかせてくれる夏の思い出
かく言う僕も「下を向きながら歩いている人間」であって…そんなとき僕に空を見上げさせてくれたのが田んぼだ。
その日は通勤時間に余裕があったので少し遠回りをして駅に向かうことにした。
少年のころから約25年の時が過ぎている。
僕の住んでいる地元は都市開発により緑は埋め立てられビルやマンションが密集する都会へと変貌を遂げた。
そんな都会をいつもと違うルートで通勤するなか小さな田んぼを見つけたのだ。
田んぼはなぜか僕を一気に少年時代へとタイムスリップさせ胸が高鳴った。
僕は田んぼを覗きこみ、アメンボがスイスイ泳ぐ様子を目で追った。
そこでハッと気づいた。
田んぼが青いことに。田んぼが白いことに。
あれ…なんでやろ…あっ!
田んぼに空が映っているんだ。
思わずパっと顔をあげた。
そこにはあの頃と変わらないパッキリとした青い空に立っている高い高い入道雲の空。
耳には蝉の鳴き声が遠く降り注いでいる。
とても切なくて泣いてしまった。
あの頃の僕はやっぱり僕の中にいた。
長年つもったどろどろしたものが身体から流れ落ちた。
田んぼからの贈り物のような気がした。
僕はこの田んぼが大好きになった。少年田んぼと名付けた。
田んぼが起こした奇跡
それから2週間僕は毎朝、少年田んぼを見て通勤するようになった。
そんな日常が定着してきたある日の通勤電車。
向かいになんだか知っている人がいる。
向こうもチラチラこっちをみている。
あっ!おまえっ!
秘密基地の仲間の1人だった。
東北で仕事をしていたが結婚を機に地元に戻ってきたのだという。
少年田んぼを見ていなければ顔すら思い出さなかっただろう。
奇跡の出会いだった。
来週の日曜一緒に遊ぶことになった。
思い出話に花が咲くんだろうな~楽しみだ。
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ガタン…
…
…
上司「きみ来週の日曜、仕事で出張してくれへんか?」
キタコレーーーー!!!
社畜おつぅぅぅううううう!!